2023年(令和5年)6月1日より、三鷹市による帯状疱疹ワクチン任意接種の一部費用助成が始まります。
帯状疱疹ワクチンについて、受けた方がいいか迷っている方、ワクチンの種類で迷っている方もいらっしゃるかと思われますので、この記事で解説をさせて頂きたいと思います。
◆水痘・帯状疱疹とは?
水痘と帯状疱疹は、どちらも水痘帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus: VZV)という同じウイルスによって引き起こされます。飛沫感染、空気感染、接触感染のいずれによっても感染します。
水痘はいわゆる水ぼうそうのことで、初めてVZVに感染した時に起こります。典型的な経過は、発熱の1-2日後に赤い皮疹が出現し、水疱(水脹れ)へと変わりながら次々と発疹がからだ中に増えていきます。最終的には水疱が潰れてかさぶたになり、かさぶたが剥がれると治癒します。
水痘(水ぼうそう)は子供の感染症として知られていると思いますが、大人になってからの水痘は重症になりやすいことが知られています。
妊娠中にVZVに感染すると、胎児に重篤な障害が生じたり、産後に新生児が水痘を発症する危険があります。
一度VZVに感染すると、ウイルスは水疱のできた部分の神経の中に入り込み、神経節というこぶ状の道の駅のようなところに住みつきます。かさぶたが剥がれて水痘が治癒した後も、生涯に渡ってウイルスが感染を続けます。加齢や疲れ、ストレスなどで免疫力が下がると、ウイルスが活性化して神経節から皮膚へ到達し、痛みや発疹などを引き起こします。これが帯状疱疹です。
帯状疱疹は、脳炎、髄膜炎、血管炎、神経痛、顔面神経麻痺、角膜炎、網膜炎など、様々な合併症を引き起こします。
免疫力の低い方(高齢者、特に免疫不全症候群や抗がん剤治療中の方など)は、水痘・帯状疱疹の感染リスク・重症化リスクが高く、注意が必要です。
◆帯状疱疹後神経痛(Postherpetic Neuralgia:PHN)
帯状疱疹に罹った後に1〜6ヶ月以上過ぎても痛みが続く状態をいいます。前述したようにVZVは一度感染すると神経節の中に住み続けますが、帯状疱疹を発症する時に神経節から神経線維を遡って皮膚に移動します。その時の炎症により神経が傷つくことがPHNの原因といわれています。PHNは難治性であることが少なくなく、予防が極めて大切です。予防とはつまり、水痘にかからないようにすること、帯状疱疹の発症を防ぐこと、帯状疱疹の重症化を防ぐ事、帯状疱疹になった際に早期に治療を開始することにあたります。
◆帯状疱疹血管症(VZV vasculopathy)
帯状疱疹になると、その後の脳卒中や心筋梗塞などのリスクが高まることがわかっています。
VZVが再活性化した際に血管に入り込み、炎症を起こすことが原因とされています。
◆帯状疱疹と免疫
免疫力は主に
①液性免疫(抗体価)
②細胞性免疫と
いう2種類がありますが、帯状疱疹の発症、重症度や、帯状疱疹後神経痛(Postherpetic Neuralgia:PHN)の発症には細胞性免疫が大きく関与することがわかっています。
細胞性免疫は加齢によって低下するため、帯状疱疹は50歳以上で発症しやすくなります。
◆帯状疱疹ワクチンの効果
帯状疱疹ワクチンをうつことにより、以下の効果が期待できます。
・水痘の予防
・水痘の重症度の低下
・帯状疱疹の予防
・帯状疱疹の重症度の低下
・PHN(帯状疱疹後神経痛)の予防
◆帯状疱疹ワクチンの種類
帯状疱疹ワクチンは2種類あります。
①生ワクチン:ビケン®︎
②不活化ワクチン(新規帯状疱疹サブユニットワクチン):シングリックス®︎
生ワクチンとは、弱毒化したウイルスです。
一般的に、ウイルスに感染すると体がウイルスと戦うために抗体を作ったり、ウイルスと戦う細胞を整えたりして免疫力を高め、ウイルスを排除します。体に悪い影響を及ぼさない程度にウイルスを弱らせ、それを体の中に入れることによってウイルスに対する免疫力を得ようとするのが生ワクチンです。
帯状疱疹の発症、重症度やPHN(帯状疱疹後神経痛)の発症には細胞性免疫が重要であることは前述しました。
しかし、生ワクチンは弱毒化こそすれ感染力のあるウイルスなので、妊婦さんや免疫不全の患者さん、免疫低下状態の方(血液がん、抗がん剤投与3ヶ月以内、免疫抑制剤投与中の方など)は、帯状疱疹発症のリスクが高いにも関わらず、接種できないことが問題でした。
また、高齢になると自然免疫が低下し、生ワクチンに対して十分な反応が起こらず、獲得する免疫がいまひとつでした。
(アメリカ人のデータで、帯状疱疹発症予防効果が、50-60歳で69.8%、70歳以上で51.3%。)
新しいワクチンである②の不活性化ワクチン(新規帯状疱疹サブユニットワクチン)は、ウイルスを無毒化し、さらに免疫力を高める作用を施したものです。これまで禁忌であった免疫不全や免疫低下の患者さん、妊婦さんでも接種が可能です。日本人を含むアジア・アメリカ・ヨーロッパ人のデータで、帯状疱疹の発症予防効果は、50歳以上で97.2%、70歳以上でも89.8%という驚きの結果でした。効果の持続期間やPHN(帯状疱疹後神経痛)の予防も生ワクチンより有効というデータが出ています。
また、効果の持続期間についても、生ワクチンは5年程で効果がなくなってしまうのと比較し、不活化ワクチンは10年の効果が期待できます。
アメリカのワクチン推奨委員会(ACIP)は、50歳以上の帯状疱疹の発症予防および関連合併症予防において、生ワクチンよりもこの不活性化ワクチンを推奨する声明を出しています。また、生ワクチンを接種したことのある人も不活性化ワクチンを受ける事を推奨しています。
明らかに不活化ワクチンの効果が高いため、アメリカでは帯状疱疹の生ワクチンは販売中止となっています。
副作用については、生ワクチンよりも不活化ワクチンの方が頻度が高く、重症度も高めです。とはいっても、不活化ワクチンの副作用で1番多いのは注射した部分が腫れたり痛みが出る程度で、重症度も中程度までのものが大半です。
副反応が強いということは、十分にワクチンに体が反応し、免疫の獲得に作用していることが示唆されます。
◆帯状疱疹ワクチンの値段について
ワクチンは自費診療となるので、医療機関によって値段は多少の違いがあると思います。
当院では、生ワクチン8800円/回(1回で終了)
不活性化ワクチン22000円/回×(2-6ヶ月あけて計2回接種が必要)=44000円
です。
三鷹市の助成事業では
生ワクチン1回あたり4000円×1回のみ
不活性化ワクチン1回あたり10000円×2回までが助成金として支払われます。
つまり、助成金を使うと、差し引きの自己負担費用は
生ワクチン4800円、不活性化ワクチン24000円となります。
助成が受けられるのは生涯1回のみです。
任意接種ですので、ワクチンを接種するかどうか、どちらのワクチンを接種するかは、最終的には患者さんのご希望になります。
ご不安なことやご質問などありましたら、ぜひご相談下さい。
助成金についての詳細は、三鷹市のホームページ(こちら)をご覧下さい。