"胃だけ"じゃない胃カメラを

胃カメラでわかることはなんでしょう。
胃の病気、だけでしょうか?

胃カメラというと胃の検査と思われがちですが、正式な名称は、「上部消化管内視鏡検査」です。
上部消化管、すなわち、食道・胃・十二指腸ですが、胃カメラで見られるのはそれだけでもなく、
耳鼻科領域である中咽頭、下咽頭、喉頭も観察できます。

胃カメラを行うときに、スッと入れてスッと抜いてしまう先生がいらっしゃいますが、
私の恩師は、「内視鏡は入れた瞬間から抜く瞬間まで気を抜かずに観察するように」と繰り返しご指導下さいました。「口腔内、咽頭・食道はたたの"通り道"じゃない」と。

アルコールやたばこを長らく召し上がっている方は、口腔内や咽頭にメラノーシスという茶色いシミの様なものが観察されることがあります。(食道にもできます。)
メラノーシスがある方は、下咽頭癌や食道癌になるリスクが高いと言われています。
内視鏡を口に入れた瞬間から、癌のリスクがわかるのです。

また、長らくお酒を飲んでいる方は、食道全体に慢性的な炎症変化があります。
食道に入った瞬間に「この人はお酒のみだな…」とわかります。

検査後、「お酒をよく飲まれますよね?」とお聞きすると、「え、そんなことまでわかるんですか?」と驚かれる方もおられますが、
はい、わかります。
食道を"通り道”としてではなく、きちんと診ていれば、わかります。

バリウムと内視鏡検査とで、内視鏡検査をお勧めしたい理由はたくさんありますが、そのうちのひとつとして重要なのが、「食道癌・咽頭癌を早期に見つけられること」だと思います。

バリウムは胃にはたまりますが、食道部分は一瞬で流れていってしまうので、その一瞬の間に早期の癌を見つけることはほぼ不可能だと思います。(咽頭は撮像範囲ですらありません。)
飲み込みづらさや喉のつかえ感が出るほど凹凸のある癌なら別として、わずかに凹んだり隆起している程度の食道癌(=内視鏡治療で取り切れる範囲の食道癌)をバリウムで検出するのはかなり難しいと思います。

内視鏡であれば、早期の癌だけでなく、癌になる前の慢性的な炎症の状態も確認することができ、食道癌や咽頭癌のリスクが高いかどうかを見ることができます。

内視鏡をしている先生で、胃カメラは胃だけを診ればよい(というか、食道の観察は苦手)という感覚をお持ちの先生がおられるのも事実です。
内視鏡を受けて「問題ない」と言われている方の中で、
胃はきれいだけど、食道は荒れ放題。本当はアルコールによる炎症で食道癌のリスクが高いのに、毎年ただの逆流性食道炎として流されている、というケースも少なくありません。
逆流性食道炎は胃酸を抑える薬でよくなることが多いですが、
アルコールによる慢性炎症は、アルコールを多飲している限り良くなりません。
アルコールやたばこは、やめたときから癌のリスクは下がっていきます。
きちんと診断して、生活指導に繋がれば、食道癌や下咽頭癌のリスクは減らせます。

食道は、胃や大腸と違い、外側に漿膜という膜がないことが特徴です。そのため、癌が深く入り込みやすく、比較的厚みのない癌でもリンパ節に転移を来しやすいので、より早期の状態で見つけることが重要です。

食道癌のリスクが高い方は、下咽頭癌や喉頭癌のリスクも高いため、できれば鎮静剤で眠った状態で、喉の部分も丹念に内視鏡で観察すべきです。(起きた状態でも観察できなくはないですが、オエッとなることが多いと思います。)

鼻からの内視鏡であれ、鎮静剤を使うのであれ、半日食事を抜いてわざわざ楽ではない内視鏡を受けていただくのですから、できるだけ隅々まで見せて頂き、安心して帰って頂きたいなと思っています。